こんにちは。元ICUナースのカナです。
看護学生の急性期実習や新人看護師の急性期病棟での業務において、術後の患者さんの看護は必須ポイントになります。
今回は、そう行った術後の看護のポイントをお伝えしていきたいと思います。
結論からお伝えすると、抑えるべきポイントは「術後合併症が起きていないか」を確認することになります。
その合併症とは以下になります。
術後合併症
1)後出血
2)水分出納バランスや電解質バランスの崩れ
3)ガス交換障害
4)創感染
5)その他
では、これらの合併症がなぜ生じるのか、また、合併症の有無をどのように確認すべきかを詳しく説明していきます。
本記事の内容
術後の看護(合併症とアセスメント)ICU・集中治療室看護
手術による身体への影響
全身麻酔を要する手術を行うことで、身体には様々な影響が及ぼされます。
・侵襲による身体の反応
・全身麻酔による身体への影響
それ以前に、もともとの患者さんの身体機能が合わさり、術後には複数の合併症が生じる危険性があります。
侵襲
まず、手術という「侵襲」についてです。
侵襲は生体名部の恒常性(ホメオスタシス)を乱すものです。
そういった侵襲を受けると、身体は恒常性を維持しようと何かしらの反応をします。
この生体反応には個体差があります。同じ侵襲を受けたとしても、患者さんの年齢や基礎疾患などにより差が認められます。
侵襲による生体反応を詳しく説明します。
神経・内分泌系のストレス反応
侵襲により交感神経が刺激され、内分泌ホルモンが亢進します。
分泌が亢進するホルモンとその働き
1)カテコールアミン(アドレナリン,ノルアドレナリン)
心収縮力や心拍数を増加させ心拍出量を増やします。
エネルギー代謝においては,心筋の酸素消費量を高めたり,グリコーゲンの分解を促進し肝内グルコースを放出することで糖新生を促します。
また,膵ランゲルハンス島のβ細胞を刺激して,インスリン分泌を抑制する作用もあります。
その結果,糖新生とインスリンの抑制作用が重なり,生体は高血糖へと傾きます。
2)侵襲に対する最も顕著な反応として,細胞外液を体内に保持しようとする働きがあります。
外科的侵襲を受けた患者は,循環血液量の減少や血圧の低下が刺激となり,抗利尿ホルモン(ADH)の分泌が亢進します。
さらに,レニン―アンジオテンシン―アルドステロン系も活性化し,体外への水分やナトリウムの排泄を最小限にしようとします。
一方,カリウムや水素イオンを細胞内へ移動させたり尿中へ排出させたりすることで,血液や細胞外液のpHをアルカレミアに傾け,アシデミアを防ごうとする合目的的反応も見られます。
サイトカイン誘発反応
サイトカインにより誘発される炎症・免疫系反応のことです。
身体へ組織損傷が生じることで、熱感,腫脹,疼痛,機能障害を特徴とする炎症が生じます。この炎症に対し、サイトカインは炎症を促進したり制御したり、様々な活動を示します。
サイトカインによりマクロファージが活性化されることで、CRPの合成が促進されます。
手術侵襲により生じる生体反応まとめ
・血圧↑
・脈拍↑
・血糖↑
・尿量↓ など
全身麻酔による身体への影響
全身麻酔の目的
・鎮痛:手術侵襲による痛みを取り除く
・鎮静:繊細な手術操作を可能にする
麻酔の導入により、身体は副交感神経優位になります。
結果、
血圧↓
脈拍↓
体温↓ などの反応が認められます。
麻酔から覚めることで、この逆の現象が生じます。
血圧や脈拍は侵襲による生体反応とともに、鎮痛鎮静効果の現象によるものです。
体温は下がることにより「シバリング」という全身が大きく震える反応を起こし、体温を上昇させようとします。。
全身麻酔を伴う手術によって生じる身体への影響:術後合併症の危険性
出血、循環血液量の減少、ショックや疼痛、情動などの手術侵襲により副腎髄質ホルモンの分泌が亢進し、血圧上昇を招き、術損傷部位や吻合部位に負荷が加わり出血を来たす恐れがあります。
1)後出血
・術後のカテコラミンの分泌、麻酔覚醒による血圧の上昇により、血圧コントロール不良となり出血を来たす恐れがある。
・主要大血管の血流低下は容易にショックへ移行する。
・術中の血管処理で止血が不十分であれば後出血を来たす。
・ドレーンが挿入されていない場合には後出血を見逃しやすいため、腹囲や腹部症状を充分に観察する必要がある。
ドレーンとは
先端を体内に留置し、その周囲に液体が貯留すると外部へ排出できる仕組みです。
ドレーンからの排液の性状や量を観察するとともに、ドレーンの位置が変わっていないかにも注意しましょう。
位置が変わったり抜けないようにしっかりと固定をし、患者さんにもドレーンの意味や注意点を説明しましょう。
2)水分出納バランス・電解質バランスの崩れ
・水分のサードスペースへの移行と術中の不感蒸泄に伴う水不足、またリフィーリング期の尿量増加に伴い水・電解質バランスが崩れる恐れがある。
・術後侵襲によりインスリン分泌能が正常にも関わらず、インスリン抵抗性となり、血糖上昇し、外科的糖尿病を呈すると、血管透過性が亢進し、細胞内から血管薤へ水が移動し、腎血流量が増加し、尿量が多くなる。
・術後1~2日になるとリフィーリング期を迎え、副腎皮質や副腎髄質の活動は正常化し、体内に貯留していた水分とNaが循環血液中に戻り、体内の水分量は減少し、それに伴いKの排泄が促進されるため水・電解質バランスが崩れる。
・循環血液量の減少により腎血流量が保持できず、腎機能が低下し水・電解質バランスが崩れる恐れがある。
3)ガス交換障害
・麻酔による肺の繊毛運動の低下、気管内チューブの刺激による分泌物の増加は蓄痰の原因となり、換気低下を来す。
・麻酔の影響でサーファクタントが減少すれば肺胞虚脱し、肺拡張が図りにくい。
・術中の輸液負荷による肺うっ血増大に伴う呼吸パターンの変調を来たす。
・術後創痛の存在により呼吸パターンの変調を来たす。
・腸蠕動が低下し腹部が膨満する事により横隔膜が挙上し、換気面積の低下が考えれれる。
・ベッド上安静、臥床など、体動制限があることで背側の蓄痰を起こすと、換気低下を来す。
・床上安静により下肢の筋ポンプが作動せず、肺血栓塞栓症を合併する恐れ。
4)創感染
・創ができることにより、清潔な組織が外界と交通することによって、汚染されるリスクがあり、特に金属などの異物を挿入する場合には深部感染のリスクが高まる。
・ドレーンにより外界との交通による逆行感染や、閉塞によりアブセス形成などのリスクがある。
最後に
いかがでしたか?
ほんの少し、術後の身体の状況が理解できましたか?
手術は疾患や程度により様々で、また、患者さんの基礎疾患によっても術後の状況が異なります。
まずは基本的な知識を理解し、その上で個別的に必要な看護を考えていきましょう。